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  最果てで君と出会う

 

 

 

 

貴方と交わした約束

幸せになれ、そう言い貴方は

旅立った。

 

 

ふと、目を開けると私は白い光の中にいた。

光に慣れていき私は、自然と足を前に出し

歩いていた。

不思議と怖くない、懐かしい感じだ。

私の手が見えた。

皺が刻まれた細い指先。

そう、私は随分、歳をとった。

あれから、どのくらいの月日が経ったのか……

年老いた自分を惨めには思わないが

今も思い出すのは、貴方との別れ。

私のために命をかけてくれた貴方に私は

応えることが出来なかった。

もし、あの時……それが心の片隅に何時もあり

消えずにいる。

あの時の私は……貴方の直向きな想いを受け入れられなかった。

自分の受けた過去の痛み、叶えられない想いに捕らわれていた。

偽れない心、貴方を受け入れる強さがなかった。

 

そんな私を貴方は受け止めてくれた

背負った私の傷を貴方が代わりに受けて持っていってくれた。

だけど、私は貴方に何もしてやれなかった。

 

後悔は今もしている。

そんな事を知れば貴方は何て答え、どんな顔をするのかしら?

 

きっと、困ったような顔で笑ってくれる。

 

そんな気がするの。

 

あれから、世界は争いが無くなった訳ではないけれど少しずつ平和に向かい動きだした。

前のように武器を手にして眠ることもなくなった。

高いバリケードを築く必要もなくなった。

そんな時が漸く訪れた。

貴方が望み、親友に託した思いは身を結んだ。

 

でも、思うことがあるの……

貴方が隣にいてくれたら、と………

 

歩き続けてどれくらい経ったのか。まだ回りは白い光に包まれていた。

私は歩みを止めずに進んでいた。

何故か貴方のことばかり思い出す。

共にいた時間は短かったけど、私にはかけがえのない時間だったのだ気付かされた。

その過ごした時間があったから私は生きて

これた。

だけど、貴方と交わした最後の言葉は守れなかった。

女として生き幸せになれ、それは出来なかった。

村を守る者として、私は自分を慕う人々の幸せを考えて生きることにした。

彼等が笑い過ごせる時を作り受け継いでいくことに私は新たな生きる道を見出だした。

私は女には戻れなかった。

いや、違う……戻れなかったのはなく……

戻らなかった、そう……私は……

 

『成る程、らしいな』

ふと声がした。聞き覚えのある声。

私は立ち止まり辺りを見回していた。

貴方が…?

再び私は眩い光に包まれた…… 

 

 

光に慣れ目を開けると、そこは白い花が沢山咲き茂る広い場所だった。

風に揺れる白い花が青く澄んだ空に良く映えていた。

私は花の中に立ち止まり回りを見る。

『フフッ……』

もう一度、声がした。

一度も忘れたことのない、その声に何時しか胸が熱くなり私はうつむく。

風が優しく私の髪を撫でていく。

『……久しぶりだな』

声は語り懸ける。私は顔を上げられず頷いた。

『元気だったか?』

「ええ……こんな、おばあちゃんになるまで無事に生きてきたわ」

『……そうか、俺との約束の一つは守ってくれたな』

その声が少し沈んだように聞こえて私は何も言えなかった。

ザッ……

足音か聞こえ自分に近づいてくる気配。

ふと視界の端に何かが揺れて見れた。

そして、そこには……忘れられない人がいた。

『マミヤ』

差し出された手を避けたのは私が彼よりも遥かに歳を取ったのを見られたくなかった。

「レイはあのままの……出会った時のまま……私は随分、歳を取ったわ。こんなしわくちゃで……」

自嘲する私に目の前の彼は、笑いだす。

笑顔も変わらず昔のままで私は少し取り残された感じに寂しさと悲しみが苛立ちとなり思わず、

「笑わなくてもいいじゃない!」

思わず声を荒げると、彼はそのガーネットの瞳を細めた。

『相変わらず変わらないな。気の強さも……だが、俺の目には年老いた女は見えないんだが……?』

その言葉に私はもう一度、自分の手を見た。

皺と染みの浮かんだ手はなく、そこには張りのある肌に包まれた手があった。

『あの時のまま美しいな、マミヤ』

優しく微笑む彼を見て私の姿は、彼と別れた時の若い自分になっていることに気づいた。

彼が私に手を再び差し伸べた。

握り締めた手が暖かくて私は彼を見詰めていた。

『……共に生きたいと思う男はいなかったのか?』

少し悲しげな顔で訊ねる彼に私は首を縦に振る。

「貴方との約束、それだけは出来なかった。だって……」

漸く私は告げられる。私の言えなかった想いを。

「私は貴方を愛している、これからも……だから……」

これからは共にいます、私は彼に伝えていた。

『俺が言いたいことを先に言われたな』

クスリと笑うと彼は私を抱き締めた。

『ならば、この場で誓う。もうこれからは共に……』

「ええ、レイ……」

そう、漸く会えたこの場所で私たちは永遠を誓いあった。

二人だけしかいない、この場所は白い花の群生と緩やかな時だけが存在し、

私たちを包み祝福してくれていた。

 

   

 

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